夏休みが明けても、子どもの熱中症は終わっていません。運動会や部活動の大会が続くこの時期だからこそ、あらためて現状を知っておく必要があります。
「屋内だから、校庭よりは安全」。体育館について、そう考えていないでしょうか。
実は、学校で起きる生徒の熱中症の5件に1件以上は、体育館で発生しています。本記事では、総務省消防庁・文部科学省・日本スポーツ振興センターが公表しているデータをもとに、体育館での熱中症の実態と、体育館で熱中症が起きやすい原因を整理します。あわせて、来年の夏に向けて今から準備しておくべきことも紹介します。
この記事でわかること
- 体育館での熱中症の発生件数と割合
- 学校・部活動で起きている生徒の熱中症の現状
- 体育館で熱中症が起きやすい3つの原因
- 来年の夏に向けて、今から準備しておくべきこと
1. 体育館の熱中症は何件?学校で起きる熱中症の5件に1件
2024年度に小・中・高校の管理下で起きた熱中症は、計2,972件でした。校内・校外を合わせて場所別に集計すると、主な発生場所は次のとおりです。
| 発生場所 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 屋外の運動場(校庭・学校外の競技場など) | 1,656件 | 約56% |
| 体育館(校内・学校外の合計) | 653件 | 約22% |
| 道路 | 157件 | 約5% |
| 教室 | 119件 | 約4% |
| プール | 35件 | 約1% |
体育館での熱中症は、屋外の運動場に次いで2番目に多く、教室の5倍以上にのぼります。
校舎内で起きる熱中症の約7割は体育館
校舎内で起きた熱中症だけを見ると、668件のうち488件、約7割が体育館・屋内運動場での発生でした。屋内で起きる熱中症の多くは、教室ではなく体育館で起きています。
高校では約4件に1件が体育館
学校種別に見ると、体育館での発生は小学校で34件(約10%)、中学校で261件(約22%)、高校で358件(約24%)です。学年が上がるほど、体育館で起きる熱中症の割合が高くなります。屋内では、剣道や柔道で熱中症が多く発生していることも報告されています。
2. 生徒の熱中症は年間3,000件前後|部活動中の発生が中心
授業・部活動・登下校中などに起きた熱中症は、2023年度が3,240件、2025年度が2,813件確認されています。これは日本スポーツ振興センターの災害共済給付の件数です。給付の対象は医療費総額が5,000円以上のものなので、受診しなかった軽いケースなどは含まれていません。
部活動が始まる中学生から急増
2024年度の学校種別の件数と、主な発生場面は次のとおりです。
| 学校種 | 件数(2024年度) | 主な発生場面 |
|---|---|---|
| 小学校 | 339件 | 学校行事 約32%、 体育の授業 約28% |
| 中学校 | 1,161件 | 運動部活動 約58% |
| 高校(高専を含む) | 1,472件 | 運動部活動 約67% |
中学・高校では、熱中症の半数以上が運動部活動中に起きています。部活動が始まる中学生で急に増え、高校1年生で最も多くなる傾向も示されています。
死亡事故の多くも部活動中
1975〜2017年の43年間に、学校の管理下で起きた熱中症による死亡は170件ありました。そのうち145件が運動部活動中です。近年は年0〜2件程度に減っているものの、ゼロにはなっていません。
3. 体育館で熱中症が起きやすい3つの原因
原因① 屋根から伝わる熱(輻射熱)
体育館は、夏の日差しを受ける屋根の面積が大きい建物です。日中に熱せられた屋根の熱は室内へ伝わります。直射日光が当たらない屋内でも、熱くなった屋根や壁から出る熱にさらされ続けることになります。こうした輻射熱が大きいほど、熱中症は起きやすくなります。
原因② 熱と湿気がこもりやすい大空間
天井の高い大空間は、上部にたまった熱気が夕方になっても抜けにくく、室内の温度が下がりにくくなります。湿度にも注意が必要です。体育活動では、気温30℃以下でも湿度が60%以上あれば死亡事故が起きています。
原因③ 運動の強度が高い
激しい運動ほど、熱中症は起きやすくなります。体育館では、防具を着ける剣道や、体の接触が多い柔道のように、熱がこもりやすい競技も行われます。
空調だけでは解決しない
国は体育館の整備について、冷房の効果を高めるために、建物の断熱性能を確保することも含めて進める必要があるとしています。文部科学省も、室内環境を良くするには、空調、建物の断熱・気密性能の向上、換気を組み合わせることが有効だと示しています。体育館の暑さは、設備があるかないかだけの問題ではありません。建物そのものが熱をどれだけ受け止め、ため込んでしまうかという問題でもあるのです。
4. 子ども・生徒が熱中症になりやすい体の特徴
体育館という環境に加えて、子どもの体にも熱中症になりやすい特徴があります。とくに年齢の低い子どもほど、次の点に注意が必要です。
- 体温を調節する力が未発達:汗腺などの体温調節の能力が十分に育っていない
- 深部体温が上がりやすい:体重に比べて体表面積が大きく、高温の環境では体の内部の温度が上がりやすい
- 自分で気づき、伝えることが難しい:熱中症を起こしていても「疲れた」といった言葉でしか表現しないことがある
5. 来年の夏に向けて、体育館で今から準備しておくこと
夏の平均気温は、2025年が観測史上最も高く、2023年と2024年が同じ値で歴代2位、2026年も5位でした。直近4年の夏は、すべて観測史上5位以内です。暑い夏はもはや例外ではなく、毎年やってくる前提で備える必要があります。
来年の夏に向けて、秋から冬のうちに取り組んでおきたいことは3つです。
① 今年の夏を記録に残す
体育館で活動を中止・短縮した日数、体調を崩した生徒の人数、体育館の温度や暑さ指数を整理しておきます。記憶が新しいうちにまとめておけば、来年の対策の優先順位を決める根拠になります。
② 運用のルールを見直す
活動中止の基準、休み明けに暑さに慣らす期間、運動会など行事の時期を見直します。今年の経験を、来年のガイドラインや年間計画に反映させます。
③ 建物側の対策は、早めに検討を始める
屋根や外壁など建物に手を入れる対策は、現地調査から計画、予算の確保、工事まで一定の期間がかかります。来年の夏前に間に合わせるには、秋から冬のうちに現状を把握し、検討を始めておくことが欠かせません。
6. 体育館の熱中症対策チェックリスト
文部科学省が学校向けに示しているチェックリストも参考に、「今すぐ」と「来年に向けて」に分けてまとめました。
今すぐ確認したいこと
□ 体育館の暑さ指数(WBGT)を、活動前に体育館の中で測っている
□ 活動を中止する基準と、誰が判断し、どう伝えるかが決まっている
□ 生徒の「疲れた」「だるい」を熱中症のサインとして受け止められる
□ 運動会や大会など、普段と違う活動の前に緊急時の対応を確認している
来年の夏に向けて準備したいこと
□ 今年の夏、体育館での活動中止や体調不良の記録が残っている
□ 休み明けの暑熱順化や行事の時期を、来年の計画に反映させる予定がある
□ 体育館が暑くなる原因を、建物(屋根・壁・換気)の面からも把握している
□ 建物側の対策をいつ検討するか、スケジュールが決まっている
体育館は、「屋内だから安全」な場所ではありません。来年の夏に向けた準備は、今から始まっています。
次回は、屋根・外壁の専門会社の立場から、体育館の暑さを建物側から抑える方法を解説します。
出典
- 日本スポーツ振興センター「熱中症データを見る」
- 日本スポーツ振興センター「熱中症発生のメカニズムと対策『児童・生徒編』」
- 文部科学省「学校教育活動等における熱中症事故の防止について(依頼)」(令和6年4月30日)
- 文部科学省「学校教育活動等における熱中症事故の防止について(依頼)」(令和8年5月8日)
- 文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備の今後について」
- 日本スポーツ協会スポーツ医・科学委員会資料「教育現場の熱中症」
- nippon.com「2026年夏の平均気温、歴代5位」



